慢性腎臓病(CKD)
更新 2020-01-30
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はじめに
健康診断や採血の結果を受け取ったときに、推算糸球体濾過量 (eGFR)や尿タンパクといった項目に注目してください
これらは、あなたが心臓病や腎不全になる危険性を教えてくれます
CKDとは
慢性腎臓病 (chronic kidney disease CKD)の定義
- 尿異常,画像診断,血液,病理で腎障害の存在が明らか。特に 0.15 g/gCr 以上の 蛋白尿(30 mg/gCr 以上のアルブミン尿)の存在が重要
- 糸球体濾過量(GFR)<60 mL/分/1.73 m2
- 1.2のいずれか,または両方が 3 カ月以上持続する 1)
腎臓の働きは、一般的にはクレアチニンという血液中のタンパク質の濃度で調べます
そして血液中のクレアチニン濃度と年齢、性別を用いて推算糸球体濾過量(eGFR)を計算して、腎臓の働きを評価します
eGFRが低いほど腎臓の働きが低いと診断されます
健康な人のeGFRはおよそ100mL/分/1.73m2です
CKDの診断のポイントは3つ
1.検尿でタンパク尿があるか? 2.eGFRが6割未満に落ちているか? 3. 1,2のどちらか、もしくは両方が3ヶ月以上続いているか
これに該当すればCKDと診断されます
腎臓の病気はたくさんありますが、細かい病名にはこだわりません
いま、なぜCKDが注目されるのか
CKDという概念が生まれた背景は以下のような理由があります
- CKDは末期腎不全だけでなく心血管障害の発症リスク
- CKDの有病率は高く、今後も増加することが危惧される
- 早期発見によってCKDの進展予防、治療が可能
- 透析を要する末期腎不全患者が増えている
腎臓の働きが低いほど、またタンパク尿が多いほど透析になる危険性が高まります(表1)
表1
腎不全の危険だけでなくタンパク尿が出るだけ、eGFRが低くなるだけでも、心臓や脳の病気が多くなることがわかってきました(表2)
表2 CKDにおける心血管死亡のステージ別オッズ比
タンパク尿が陰性でeGFRも正常(表でRefと記載)の人と比べて、脳卒中や心筋梗塞の危険度は、タンパク尿がたくさん出ていると2倍から8倍、eGFRが30未満で4.8倍から14倍になります。
CKDはもはや腎臓だけの問題ではなく、命を脅かす病気の原因なのです
しかも、日本におけるCKD患者数は1330万人と推定されています。成人の8人に1人がCKDなのです。決してまれな病気ではありません
そして残念なことに一旦腎機能が低下すると元に戻りません
治療法がなければ悲観するだけですが、CKDは早期に診断(表1の黄色)なら治療可能、オレンジでも進展予防が期待できます
大事なことはいかに早く見つけて、対応するかということです
群馬県は糖尿病から透析になる可能性日本一!?
日本透析医学会による各年新規透析導入患者のデータによると、2017年に糖尿病が原因で透析となった患者数を人口10万にあたりで補正したところ、群馬県は18人/10万人/年でした。この値は47都道府県中で一番悪いです
ちなみに最も少ない新潟県は9.2人/10万人/年ですので、ほぼ倍です。
背景因子が違うため一概には比較できないと明記されておりますが、なんとかしないといけない状況です
あなたの腎臓は今どのレベル?
CKDの特徴は自覚症状がまったくないということです。
eGFRが20%程度まで低下しないと体の不調は認められません
命に関わるCKD対策を取るためには、あなたの今を把握する必要があります
健康診断や医療機関で調べた検査結果を見直してみましょう
日本腎臓学会編集の「患者さんとご家族のためのCKD療養ガイド2018」にCKDの重症度分類が記載されています(表3)
表3 CKD重症度分類
まずタンパク尿区分をチェックをして、その後eGFR区分を見てください
2つの結果が交わったところの色を確認してください
緑色なら今のところ心配はありません
黄色の人は減塩、禁煙、運動を行い定期的に検査を受けてください
オレンジ、赤の人はぜひ腎臓専門医に相談してください
どうすればいいのか
透析になる三大原因
糖尿病、慢性糸球体腎炎、高血圧による腎硬化症です
腎不全予防のためにこれらの病気を早く診断して適切な治療を受けることで腎不全にならずに済んだり、慢性腎臓病と診断されても進行を遅らせることができます。
慢性腎臓病の治療
基本は食事と運動、禁煙、内服、注射です。
症状がなくても定期的な通院が必要です。
ご自分でできる腎不全予防
- 禁煙する
- 減塩する 3~6g/日
- 尿酸を下げる
- 脂質異常症を改善させる
- たんぱく質制限をする(栄養士さんと相談しながら)
- メタボリックシンドロームを改善させる
- 運動をする
医療機関と協力して行う腎不全予防
- 高血圧
- 診察室の血圧で
タンパク尿が出ていない場合 140/90mmHg未満目標
タンパク尿が出ている場合 130/80mmHg未満目標
75歳以上の方 150/90mmHg未満目標 110mmHg未満にしない
腎臓の力が元気な頃の30%以上を保っていてかつ、タンパク尿が一日あたり1g以上出ていている方にはレニンーアンギオテンシン系阻害薬 (RAS阻害剤)という種類の血圧の薬を使うことでタンパク尿が減ったり、腎機能が保てます - 貧血
- CKDが悪くなると、赤血球を作るホルモンの”エリスロポエチン”が不足し、酸素を運ぶ色素(ヘモグロビン)がうまく作れず、腎性貧血という状態になります
その結果、体のすみずみに酸素が届かなくなり、腎臓や心臓に悪い影響がでます
ヘモグロビンを11g/dL以上13g/dL未満を目標にエリスロポエチンの注射をします - 糖尿病
- 糖尿病が10年位続くと腎臓に傷が付き、尿の中に普段は出てこないアルブミン(小さなタンパク質)が漏れ出します。
これが糖尿病性腎症の初期の状態の微量アルブミン尿です。
この時期にRAS阻害剤による血圧コントロールを行うことで、微量アルブミン尿を正常なところまで減らすことができます
微量アルブミン尿の状態を数年間放置していると、検尿でもタンパク尿が+以上の顕性アルブミン尿となり、血液中のアルブミン不足から浮腫が出たり、腎機能(GFR)が急に悪くなります
微量アルブミン尿の時期にきちんと治療をすることが大切で、定期的なアルブミン尿のチェックが必要です
また近年、微量アルブミン尿が出ないにも関わらず、腎機能が悪くなる糖尿病性腎臓病という新しい病名が提唱されました
糖尿病性腎臓病の診断は検尿だけでは難しく、定期的な血液検査が必要です
2019年に発表された大規模臨床試験 CREDENCE によると、GFRが30-89mL/min でRAS阻害剤を使用中の人にSGLT-2阻害剤という余分な糖分を尿中に出す糖尿病の薬を追加したところ腎不全になる危険性が30%低下しました
血糖を下げる以外の作用がある糖尿病の薬を使うことも大切です - コレステロール
- 悪玉コレステロールや中性脂肪は心臓、脳の病気を起こすだけでなく、腎臓にも悪い影響があります。
コレステロール産生を抑える薬で腎機能の悪化が防げるという報告があり、LDL120mg/dL未満を目指します - 尿酸
- 尿酸は、腎臓から尿として体の外に出されるため、腎臓の力が衰えると、尿酸が体に溜まりやすくなります
尿酸が高いと、痛風、尿管結石を起こすだけでなく心臓病、脳卒中、CKD悪化の原因になります
尿酸を下げる薬を使い尿酸値を下げることで腎機能悪化が抑えられるという報告があります
サプリやお薬にも注意を
サプリメント
健康のために飲んでいるサプリメント
腎臓の力が十分なれば問題ありませんが、CKDの方にとって腎機能を悪化させるものがあります
特に気をつけたいのが骨粗しょう症予防のビタミンDやカルシウムです
熱があったり下痢のときに飲み続けると血液中のカルシウムの濃度が高くなりすぎて腎臓を傷めます
飲み続けてよいか腎臓専門医と相談をしておくと良いでしょう
内服薬
医療機関から処方されるお薬の半分以上は腎臓から体の外に出されます
腎臓の力が落ちてくると、体に薬がたまり副作用を起こしやすくなります
胃薬や便秘薬といったもので痙攣が起こったり、呼吸困難になることもあります
薬の中止や減量、内服間隔の調節が必要です
表1でオレンジ色、赤色の部分に入っている人は腎臓専門医にご相談ください